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    歯を抜かずに治せる「歯周病の再生治療」について

    重症化した歯周病には、抜歯が適応されることがあります。歯を抜くというのは、虫歯においても最後の手段であり、手遅れの状態となったことを意味するのですが、歯周病の場合は歯を抜かずに治す方法も残されています。それは「歯周組織再生療法」と呼ばれるものです。今回は、そんな歯周病の再生治療について詳しく解説をします。

    歯周組織再生療法ってなに?

    歯周病は、進行していく過程で歯肉炎(しにくえん)から歯周炎(ししゅうえん)へと移行します。歯周炎になると歯ぐきや顎の骨の破壊が進むため、標準的な治療を行っても元通りに戻すことは不可能です。いわゆる「歯周基本治療」では、歯ぐきの腫れや出血を取り除き、歯周ポケットを浅くするくらいしか効果が見込めません。そこで有用なのが「歯周組織再生療法」です。

    歯周病で破壊された組織を再生する治療

    歯周組織再生療法は、歯周病によって壊された歯ぐきや歯槽骨(しそうこつ)を元に戻す再生療法です。さまざまな薬剤や人工骨などを使って歯の周りの組織を回復させます。その結果、歯のグラつきがなくなり、食べ物をしっかり噛めるようになります。歯ぐきを再生する方法も併用すれば、見た目も良くなることでしょう。

    歯周病により失った骨を再生

    歯周病によって破壊された骨は、「エムドゲイン」や「リグロス」といった再生療法で回復できます。

    エムドゲイン

    エムドゲインは、「エムドゲイン・ゲル」という特殊なたんぱく質を使って骨を再生する治療法です。具体的には豚の歯胚由来の組織から作られたタンパク質で、歯が生えてくる時と同じような環境を再現して、歯槽骨の再生を誘導します。歯周病によって破壊された部位にエムドゲイン・ゲルを填入すると、数か月かけて骨が元通りになっていきます。現状、エムドゲインによる歯周組織再生療法に保険は適用されません。

    リグロス

    リグロスもエムドゲインと同様、骨が欠損している部位に薬剤を填入することで、歯周組織の再生を試みる治療法です。エムドゲインとの違いは、使用する薬剤です。リグロスでは、「bFGF」という血管を作って骨や歯ぐきの再生を促す薬剤を使用します。また、リグロスはエムドゲインとは異なり、保険が適用されるため、歯周組織再生療法にかかる費用負担を抑えることが可能です。

    歯を残せる可能性について

    エムドゲインやリグロスといった歯周組織再生療法は、すべての方に同様の結果が得られるというものではありません。患者様の顎の骨や全身状態によっては、歯周組織の回復があまり見られない場合もあります。そうしたケースでは、結果として歯を抜かざるを得なくなりますので、十分な理解が必要です。もちろん、エムドゲインやリグロスによって良好な結果が得られ、本来抜くはずだった歯を残せるようになることも多々あります。

    歯周病により失った歯肉を再生

    上段では主に歯槽骨という顎の骨を回復する再生療法について解説しました。歯周病では、顎の骨だけではなく、歯をとりまく歯ぐきも破壊されるため、エムドゲインやリグロス以外の治療法を併用しなければならないケースもあります。とくに歯ぐきの退縮が著しいケースで、審美面に大きな障害が見られる場合は、「遊離歯肉移植術(ゆうりしにくいしょくじゅつ)」という再生療法が適応されることが多いです。

    遊離歯肉移植術とは?

    遊離歯肉移植術とは、歯周病や付着歯肉(歯の周りに付着している硬い歯肉)などの影響で歯ブラシがしにくく傷つきやすい歯肉を回復させるための治療法です。患者様ご自身のお口の中から歯肉(=歯ぐき)を採取して、適切なサイズに切り取ります。そうして作った移植片を該当する歯肉に貼り付けるのです。

    遊離歯肉移植術の安全性は?

    移植手術というと、移植後の拒絶反応が気になるところですが、遊離歯肉移植術では患者様ご自身の組織を使うため、異物と認識される可能性は極めて低いです。ただし、手術の際には移植片を採取する部位と移植する部位の2か所に傷口ができるため、感染のリスクは高まります。比較的高度な歯周形成手術であり、治療実績豊富な歯科医師に任せた方が安全といえます。また、歯肉が退縮し、歯根が露出してしまった歯は、「結合組織移植術(けつごうそしきいしょくじゅつ)」という方法でも回復できます。結合組織移植術も患者様ご自身のお口の粘膜の組織を採取するため、拒絶反応は起こりにくいです。また、「結合組織」という歯ぐきの中の組織だけを採取することから、遊離歯肉移植より傷の治りが早いという利点もあります。

    まとめ

    今回は、歯を抜かずに残すことができる「歯周病の再生治療」について解説しました。重症化した歯周病では「歯を抜く以外方法はない」と診断される場合もありますが、今回取り上げたエムドゲインやリグロス、遊離歯肉移植などの歯周形成手術に対応している歯科医院なら、歯を残せるかもしれません。歯は一度抜くと再生することがない組織なので、保存できる道があるのなら、最後まであきらめずに模索することをおすすめします。さまざまな歯周組織再生療法に対応している当院までご相談いただければ、そのお手伝いができるかと思います。
    当院の詳しい歯周病治療に関してはこちらをご覧ください。

     

    執筆者情報

    院長・理事長・歯科医師

    Igari Hiroaki

    お口の健康は全身の健康と密接に関わっています。歯科は他の診療科と違い、自然治癒はほぼありません。歯科治療のほとんどが置換医療になるため、予防が何より大切です。当院では、患者さん一人ひとりがお口の健康を取り戻すために必要な問題点を共有し、治療や予防に取り組んでおります。

    「歯を残す歯周治療」、「歯を生かす矯正治療」、「失った歯を代替するインプラント」を3本の柱として、過不足のない包括的な歯科治療を行ってまいります。

    治療や予防を通して、患者さんのQOL(生活の質)向上のお役に立てると幸いです。

    経歴

    • 1988年
      福島県立磐城高等学校 卒業
    • 1996年
      東北大学歯学部 卒業
    • 2003年
      いがり歯科医院開業

    所属学会・資格・役職等

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